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東京高等裁判所 昭和28年(う)3463号 判決 1954年3月01日

控訴人 被告人 篠田茂 外一名

弁護人 栗脇盛吉 外一名

検察官 小西太郎

主文

原判決を破棄する。

被告人両名を各懲役六月に処する。

当審における訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

被告人両名の本件控訴の趣意は、末尾に添附した被告人両名の弁護人栗脇盛吉、同浦本貫一名義の別紙控訴趣意書と題する書面記載の通りである。これに対し次の通り判断する。

論旨第一点について。

所論の原判決が冐頭に判示した事実は、原判決の引用する被告人両名の原審公判廷における供述によりこれを認めることができる。しこうして原判決の右冐頭摘示の事実は原判決の認定した被告人両名の罪となるべき事実そのものではなく、被告人両名の行状を示す事実に外ならないものと認めるべきものであるから、原判決がこれを認定するには、被告人両名の原審公判廷における供述が被告人両名に不利益な唯一の証拠であつても、これにより右冐頭摘示事実を認定するに妨げなく、所論のように更に被告人両名の供述に対する補強証拠を要するものではない。しからば原判決の事実誤認を主張する論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 近藤隆蔵 判事 吉田作穂 判事 山岸薫一)

控訴趣意

第一点原判決理由事実の冐頭で「被告人等はいづれも露店商の親方芦沢茂男の配下として……露店をしたり行商をしたりなどして……脅迫的態度を用いて安価な物品を高価で売り付けていたものであるが」と先づこの事実を前提として第一乃至第十の事実の判示理由の基礎事実としたのである。しかしこの事実は起訴の事実とし、この事実に対する証拠も提出せられてないのである。この事実中弁護人は芦沢茂男の被告人等は雇傭人である。その仕事の内容等につき被告人等の利益のために証人高田正道の証言、被告人等の公判廷における供述によつて事実を主張したのである。しかも被告人等は芦沢茂男の教唆によりやむなくなした本件の行為であるとの被告人等の供述を弁護人は被告人等の犯罪行為の動機としての事実の証拠と主張したのである。しかるに原判決は証拠についての証明は自由な心証によるとしてか右被告人等の供述を「親分芦沢茂男の配下として…脅迫的態度で……物品を高価に売付けていた」と常習的な被告人等である如く判示理由の冐頭に説示し被告人等の不利益な事実としたのである。しかし仮りに右供述があつたとしてもその自白が被告人等の不利益な唯一の証拠であつてこの証拠をもつて本件犯罪につき有罪の証拠とすることはできないのである。しかもその事実はないのである。従つて原判決の脅迫的態度で物品を売付けていたとの事実がないのをある如く誤認しこの事実を本件犯罪の証拠としたことは明かに判決に影響を及ぼすべき誤認であると信ずる。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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